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いろいろなんでも


by ikeday1
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「深海の悪魔」 大石英司著

注意:ネタバレが入っていますので、これからこの小説を読もうとする方は、本稿を読まない方が良いと思います。

いやぁ、面白かった。まず、アイディアが型破りだ。こういう想像もつかないような小説は欧米の作家、例えば「ジュラシックパーク」のマイケルクライトンや「ミューテーション」のロビンクックなんかがよく知られている。それと同種の作家がついに日本に現れたかという感じである。これまでも何冊か彼の本を読んでいるが、基本的には我が国を巻き込むミリタリーものが多く、それなりに楽しんでいた。ところが、「深海の悪魔」は動物(?)による災害を扱った、これまでの著作とはちょっと毛色の異なる作品であると思う。もちろん彼の作品なので、自衛隊が活躍し、中国との軋轢なんかも描かれているが、なんと言っても作品の中で暴れ回るスピードフィッシュと言うなんとも訳の分からない海中生物が主人公だ。こういう生き物を想像し、小説に描ききる事が、並大抵の能力ではないとつくづく思ってしまう。

更に、彼の描く自衛官達がすごくリアルで、「憲法の異端児」と言われながらも献身的に活動する隊員達の葛藤や、プロフェッショナルリズムから招く家庭不和などを小説の骨としているところなど、彼以外の作品ではあまりお目にかかれない捉え方だ。昨今、自衛隊が国内外で活躍する場面が増えてきている事から、自衛隊を扱う小説が増えているが、彼ほど隊員達の内面を描ききっている作家も少ない。

また、この小説の中には「ヲタク」が出てくる。それも非常に好意的に描かれている。彼は高校生なのだが、非常に知性が高く、自らヲタクと言うものを客観的に見る事ができ、なんと、乳飲み子を抱えた同級生の少女を助けるヒーローになってしまう。また、最終的にはその少女にもててしまうと言う結末まで用意されているのだ。大石氏がミリタリーヲタクである(失礼!)事を考えれば、納得がいく展開ではあるが、私としてはとても楽しませていただいた。

最後の場面で、その少女が自衛官である父に言う「言おうと思っても言えなかったが、お父さんありがとう。お父さんはいつも立派だったわ」という台詞には、柄にもなくほろりとさせられた。読み終わってほのぼのとする小説であった。
「深海の悪魔」 大石英司著_b0050317_1971871.jpg

by ikeday1 | 2004-11-03 08:41 |